雑文

〜ジブリに関するいろいろ〜

もののけ姫って残酷? 10/28

「アメリカでは「もののけ姫」は残酷。(10/25)

宮崎駿監督の大ヒット・アニメ映画「もののけ姫」が、当初の予定通りディズニー配給でいよいよ全米で公開されることになったが、全米映画協会が指定する年齢制限は“PG-13”と決まった。13歳未満にはふさわしくなく、見る場合は保護者の強い注意が必要という指定だ。アメリカ側は、残酷な戦闘シーンはカットしてくれという要望を出していたが、基本的にノーカット・吹替え上映を望む日本側との交渉が続き、結果的に日本側の意見が受け入れられた形となった。しかし、その戦闘シーンがアメリカの子供たちには残酷と判断され、今回の指定となった。上映館数も全米1,000館を予定されていたが、現在決まっている数は20館程度になりそう。作品的な評価は高いのだが、暴力描写に対して規制が厳しいアメリカならではの指定と言える。

という記事が新聞に載って「どうなってるの!?」という不安にかられた方もいるようですが、この記事を読む限りだと、どうも記者の方が「わかってないなあ」という感じですね。 日本での常識をそのまま無意識に前提条件にしてしまい、その前提条件から問い直すことをしない、という感じです。

まず間違い探しから。Princess Mononokeはミラマックス配給であってディズニー配給ではありません。ディズニーはミラマックスの親会社ですが、この2つは完全に独立したレーベルです。

それと間違いではないのですが、PG-13の指定は今年の2月に受けているので、「何を今更」の記事ではあります。

この記事を見ると、どうも「指定」というと日本での「成人指定」か最近ようやく制定された「R指定」をイメージしてしまって、なにか「これは特別なことだ」と記者は思ってしまったようです。

しかし、米国ではMPAAによる指定(Rating)はいわば日本での「映倫」みたいなもので、ほぼすべての映画についています。(細かいことを言えばMPAAのレートがなくても劇場公開は出来るのですが、レートを受けていない映画を公開するのは劇場主が嫌がりますので、かなり難しいです。)「指定を受けないメジャー映画はない」と言いきってしまっても良いと思います。

もののけ姫」のページにもかきましたが、一番下の「G指定」は「誰でも見られる映画」で、ディズニーアニメなどがこれに当たります。ただ、G指定の映画は「ご家族向け」というイメージが強く、ティーンエイジャーなどは逆にG指定の映画は「ガキ向け」でカッコ悪いと思うことがあるようです。

次の「PG指定」は「小さい子供には向かないシーンがあるかもしれないので、保護者は気をつけてね」というもので、E.T.やスター・ウォーズがこれに当たります。本当に小さい子供を持つ親は気にするかもしれませんが、私の感覚としては「G指定」とあまりかわりません。(実はスター・ウォーズがPGというのはちょっと甘すぎるのでは、と問題になったことがあります。)

問題の「PG−13」は、「13歳以下の子供には向かないシーンがあるかもしれないので、保護者は気をつけてね」というもので、別に13歳以下の子供の入場を禁止するものではありません。PG-13の映画にはジュラシック・パーク、ゴジラ(US版)、タイタニック、ID4、アルマゲドン、インディ・ジョーンズ最後の聖戦、などなどが含まれます。つまり、「もののけ姫」が「残酷」であるとするなら、「タイタニック」も「残酷」なのです。

これらの映画は小学校低学年ぐらいまでの子供には確かに向きませんが、ID4やジュラシック・パークなどのおもちゃが大々的に売られていたことからもわかるように、けっして子供を排除するレーティングではありません。普通は子供が小学校高学年になればPG-13の映画を見ることに関して親は何も言わないと思います。宮崎監督によれば「もののけ姫」の対象年齢は小学校5年生以上なので、これは大変妥当なレーティングだと思います。ただでさえ「アニメは子供のもの」という偏見が根強い米国で「Princess」というタイトルのアニメ映画があれば、もしこのレーティングがなければ親は5才児を劇場に連れてきてしまうでしょう。しかしこの映画は当然そんな小さな子供のものではありません。PG-13のレートはその事を親に知らせるためのものです。また、「G指定の映画なんてガキ臭い」と敬遠しがちなティーン・エイジャー達を呼び込む効果も持っています。すでに、「PG-13のアニメーション映画だって?Cool!」という反応をしたティーン達がいた、と私は聞いています。

さて次は「R指定」ですが、これは「18歳未満は保護者同伴」という指定です。エイリアンとかターミネーター、ダイ・ハードなどがR指定です。これは完全に子供向けではありませんが、ティーンは割とよくR指定の映画に来ています。たまに小さい子供を連れてきている人もいて、これはさすがに顰蹙を買います。統計上確かめたわけではありませんが、私のイメージでは現在のハリウッド映画はR指定の映画が中心であるように思われます。

というわけで、私にとってのPG−13は「Rまでいかないヌルい映画」なんですが、これは私が見に行く映画を選ぶ際に子供のことを気にせずに済むからなのかもしれません。

これまでアニメーションといえばほとんどG指定だった米国ではPG−13のアニメ映画というのは確かに画期的なのですが (もっとも最近サウス・パークの映画がR指定を受けましたが)、「映画」としてはPG−13というのはなんてことのないレートです。

上映館数に関しても、ブロック制などで上映期間中の上映館数がほとんど変わることのない日本での興行形態を前提として記事を書いているような気がします。

米国の興行形態はもう少し柔軟で、とくにミラマックスの場合ほとんどの映画が数館で興行をはじめて、興行成績が良ければ公開規模を拡大するという戦略を取っています。(というか、ミラマックスの作品で公開第1週から1,000館規模で公開される作品はまずありません。)「シャルウィダンス?」は5館で公開が始まり最終的には174館で公開、「イル・ポスティーノ」は10館から473館、「ニュー・シネマパラダイス」は1館から123館へと公開が拡大しています。ミラマックスの作品ではありませんが、最近のカルトヒットとなったBlair Witch Projectの場合、27館で公開がスタートして最終的には1000館以上で公開されています。

もののけ姫の場合、公開第一週は4都市で公開、次の週に20都市に拡大、までは決まっていますが、それ以降は第一週めの成績次第です。(この場合の成績とは一館あたりの興行成績です。)

もののけ姫が第二のBlair Witch Projectとなるか、それともIron Giant(批評家に絶賛されたにもかかわらず、プロモーション不足から興行が低迷)になるか、米国のアニメファンは息を詰めて見守っています。

…とまあ、こういう事情を新聞記事に書け、と言ってもそりゃあ無理ですよね。(笑)