「コーヒーはいかが?」 5/4

 

「魔女の宅急便」の英語吹き替え版は、せりふや音楽などがかなりオリジナルから変えられています。もちろん、米国のアニメファンの中にはこの「冒涜」に大激怒した人もいて、ディズニーの行った改変について、ああだこうだとファンの間で論争が繰り広げられました。

そして、論争の種となった改変の一つが「コーヒー」でした。

コリコの町へやってきたキキを自分の家に招き入れたおソノさんは、キキにコーヒーを振る舞います。(といってもインスタントコーヒーであるところが、いかにもおソノさんらしくて、私は好きなのですが。)ところが、ディズニーの吹き替え版では、これが「ホットチョコレート」になっているのです。幸い(?)おソノさんが手に持っているビンのラベルは、大半が彼女の手で隠れてしまって大文字のCが見えるだけですので、コーヒーかチョコレートかは、画面だけからではわかりません。(個人的には、ホットチョコレートだと、おソノさんがキキを子供扱いしているようであまり好きではありません。)

これに対して、「不必要な改悪だ!」と憤る人、「アメリカでは子供はあまりコーヒーを飲まないから、チョコレートのほうが自然だとディズニーは思ったのでは?」と推理する人(ここから発展して、日米欧の子供のコーヒーに関する嗜好なんて議論も展開されました)、「いや、ディズニーは少しでも”政治的に正しくない”とされることはすべて避けたいのだ。”子供がコーヒーなどの刺激物を飲むのは好ましくない”と考える親や圧力団体を恐れて変えたのだ」と主張する人など、米国のアニメファンは喧々諤々(とはちょっと大袈裟ですが)でした。

結局、徳間が以前作成したJAL用の吹き替え版でも「ホットチョコレート」となっていたことが判明して、この論争にもケリがつきました。なぜ古い吹き替え版で「ホットチョコレート」に変えられたのかは、いまだに不明ですが、この吹き替え版を翻訳のベースとしたディズニーは、オリジナルでも「ホットチョコレート」だと信じていたようです。字幕版でも「ホットチョコレート」となっていました。(字幕版は子供向けではないため、もっと「政治的に正しくない」事、たとえば神に関する言及や、ヒッチハイクのシーンなどはちゃんとそのまま残っていました。したがって、ここだけわざと「ホットチョコレート」に変えたとは考えられません。)

なお、ここから派生して、「あれがホットチョコレートだったら、キキが入れた角砂糖はどう説明つけるんだ?マシュマロにしては大きすぎる。」「いや、昔のホットチョコレートは砂糖が入っていなかったから、あれでいいんだよ」なんて議論もありました。


「雑文」に戻る