2003年4月15日に米国でDVDが発売されました。
- リジョンコード1(米国・カナダ以外では視聴不可能)、NTSC
- ワイドスクリーン、ドルビーディジタル5.1
- $29.99
- 2ディスクセット
- 日本語、英語、スペイン語音声(DD5.1、スペイン語のみDD2.0)
- 英語字幕(ビデオの字幕バージョンと同じもの)
- クローズドキャプション(英語吹き替え版を字幕にしたもの)
- ASIN: B00005JM2O
- 絵コンテ、ジョン・ラセターによる映画の紹介、声優インタビュー&アフレコ風景、日本語版の予告編(英語字幕)
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DVD版のカバー
拡大イメージ
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1998年9月1日に英語吹き替え版のビデオが全米で発売され、続いてレーザーディスクと英語字幕版のビデオが発売されました。ビデオは市価13ドルから20ドル程度、LDは定価29ドル99セントです。 LDには英語音声のほか、モノラルで日本語音声が収録されていますが、初版以降追加プレスされておらず、現在では手に入れるのは難しくなっています。
吹き替え版はテレビサイズのため画面の左右が切れていますが、字幕版とLDはワイドスクリーンで、劇場版そのままの画面比率となっています。
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字幕版のカバー
(吹替版も同じ絵柄)
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予告編@ディズニー公式
タイトル
”Kiki's Delivery
Service” −
「キキの宅急便」となり、「魔女」が抜けていますが、これはジブリが日本での公開当時から使っている英語タイトルです。ただし、ロゴはジブリが使っていたものと異なっています。個人的にはジブリのロゴのほうが好きですが、ディズニー版のロゴのほうが確かにお店で目立つかもしれません。
その後、DVD版ではまた別のロゴが使われています。

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ディズニー版ビデオのロゴ
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ジブリ版のロゴ
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声の出演
有名俳優が多数出演しています(あのデビー・レイノルズも出演しています)。これまで日本製アニメの吹き替えでは予算の都合で無名の俳優(もしくは俳優以前)が使われることがほとんどで、演技のレベルにも問題があることが多かったのですが、「魔女の宅急便」では端役にいたるまで自然な演技で、安心して見ることができました。私がこれまで見たアニメの英語吹き替え版の中で、最も出来がよかったと思います。
この吹き替え版は日本で発売されている「魔女の宅急便」のDVDにも収録されています。
オリジナル版を知っている人間にとって最大の問題はやはりジジ役のフィル・ハートマンでしょう。ハートマンは「サタデーナイトライブ」出身の有名コメディアンで(彼のクリントンの物まねは絶品でした!)、嫌みで気取った男の役を得意としていました。つまり、オリジナルの少年のジジと違って、英語吹き替え版ではおじさんのジジな訳です。理由は分かりません。徳間が以前作った吹き替え版(後述)でもジジは大人の男の人が演じていましたので、ディズニーはこれに倣っただけかもしれません。もしかしたら13歳の女の子が保護者なしで旅に出る、という主題に問題があって、せめてジジを保護者代わりにしたかったのかもしれません。確かに、ハートマンのジジはキキに対して保護者的な態度をとることが多かったようです。
しかし、批評家に(そしておそらくは一般の観衆に)一番評判がよかったのは実はハートマンでした。アドリブでジョークをたくさん入れたため、ジジはオリジナル以上に目立つ面白いキャラクターになっていて、映画祭での上映でもジジは大受けでした。「後半ジジがしゃべらなくなってしまうのがこの作品の唯一の欠点だ」とした批評家もいるほどです。
なお、ハートマンは1998年5月に亡くなっています。ご冥福をお祈りします。
翻訳
これまでに見たアニメの英語吹き替え版に比べ、台詞が英語として大変自然なものになっていたように思われます。知らない人が見たら、これが日本製アニメとは気が付かないでしょう。(そこを問題視するアニメファンもいるわけですが…)
オリジナルにはない台詞もたくさん付け加わっています。後述するように、アメリカ人は音のないシーンが苦手のようで、キャラクターはひっきりなしに何かしゃべっています(特にジジ)。ただ、オリジナルで沈黙が大変効果的に使われている、と私が思ったシーン(例えばキキがパン屋のウィンドウに自分の看板を見つけて、オソノさんのご主人に抱きつくシーン)のいくつかはそのまま残されており、何がなんでも音をつける、というわけでもないようです。
付け加えられた台詞は、キャラクターの性格や話が変わってしまうほどでもないので、個人的にはそれほど気になりませんでしたが、やはり「やりすぎ」と思った個所もあります。アニメファンの間で特に問題にされたのが、映画の最後でのジジの台詞です。オリジナルではキキの肩に乗って「ニャー」と鳴くだけですが、吹き替え版ではその前に一瞬、キキの足元にいるジジが「キキ、僕の声が聞こえるかい?」と言います。その後に「ニャー」が入るので、結局ここでキキがジジの声を聞かないことには変わりはないのですが、見る人によってはキキとジジはまた元どおり話せるようになった、とも受け取れます。それは宮崎監督の意図したことではなかったと思うのですが…(この件に付いてはそのうちまた詳しく書きます。)ディズニーはこの台詞を付け加えるかどうかでかなり悩んだそうです。
また、子供向けということもあってか(ディズニーによると、対象は5才児だそうです)、台詞がかなり分かり易くなっていました。少し親切に説明しすぎて、オリジナルの持つ微妙さがなくなってしまったと感じる個所もありました。例えば、キキとウルスラの山小屋での会話では、キキ「本当にまた飛べるようになるかしら?」ウルスラ「もちろん!本当のインスピレーションを見つけさえすればいいのよ」といった具合です。キキがなぜ飛べなくなったか、あるいはなぜ飛べるようになったかは観客が考える(あるいは感じる)ものであって、このように映画の中で簡単にせりふで片づけていいものではないと思うのですが…(第一、インスピレーションとかそういう問題ともちょっと違う気がしますし…この件についてはそのうちもっと詳しく書きます。)
なお、字幕版の翻訳ですが、残念ながら完璧とは言い難いものでした。これは徳間の作った古い吹き替え版で使われた台本を、オリジナルの正確な翻訳とディズニーが思い込んでそれを多少手直しした上で使ってしまったためです。実際にはこの台本にはオリジナルと異なった台詞や誤訳もあり、「オリジナル版そのまま」を望む米国のアニメファンにはかなり不満な出来となってしまいました。
音楽
ユーミンの歌に代わってシドニー・フォレストによる新しい歌が使われました。オープニング曲は゛Soaring"、エンディング曲は"I'm
Gonna Fly"で、どちらも結構いいと思います(予告編の中で少し聞くことが出来ます)。
BGMは、オリジナルに付いていた曲が差しかえられたり、音楽の付いていなかったシーンに曲が付け加えられたりと、かなり変わっています。ほとんどがイメージアルバムからの曲なのですが、オリジナル版を見慣れた人間にはやはり違和感があります。また、さまざまな場面で効果音が付け加えられています。個人的にはさほど気になりませんでしたが、それでもやはり「やりすぎではないか」と感じたところもありました。無論、米国のアニメファンの中にはこの改変に対して大激怒した人もいました。
これはアメリカ人が日本人に比べて沈黙が苦手、ということに原因があるようです。彼らにとって、映画というのは最初から最後まで音楽が鳴っていなければ画面に集中できないようです。実際、ディズニーが当初オリジナル版に近い音付けで試写会を開いたところ、静かなシーンに対する観客の反応が今一つだったそうです。吹き替え版はアニメファンのためのものではなく、子供やその親といったより広い市場を対象としています。その為にはアメリカ人にとって受け入れやすい形にすることも必要だったのかもしれません。
なお、字幕版ではBGMも歌も日本語版のままとなっています。
映像の修正
キキの家の「魔女にご用の方は…」の看板、おソノさんのご主人が作った「おとどけものいたします」の看板、そして、映画の最後に出てくるキキの手紙は、すべて英語に置き換わっています。大変うまく修正されているので、知らなければもとは日本語が書いてあったなんて気がつきません。
レーティング
MPAA
(アメリカの映倫みたいなものだと思ってください)によりG指定(誰が見ても大丈夫)を受けています。MPAAの指定なしで映画を劇場公開する事は難しいのですが、直接ビデオリリースする場合には別に指定はなくても大丈夫です。MPAAに審査してもらうには4,000ドル以上の費用がかかるため、多くの日本製アニメビデオは指定を受けていません。このため、親としては自分の子供が見て適切なビデオなのかどうかの判断がつきにくくなっています。ディズニーはG指定を受ける事により、「このビデオは小さなお子さんに見せても大丈夫ですよ」と親を安心させているわけです。
ビデオが発売された週(9月第1週)のブロックバスター(米国の大手ビデオチェーン)の売り上げランキングでは8位でした。(ちなみに1位は「タイタニック」。)劇場公開されておらず、ヒット作品の続編でもない(したがって知名度が低い)作品としては大健闘です。その他のチャートでも数週にわたってランクインしました。
ディズニーは発売後数週間で「魔女宅」を90万本売り上げました。ディズニーアニメは1タイトル2,000万本以上を売りますが、これは別格で、通常は大ヒット映画のビデオでも数百万本から1千万本の売り上げです。発売時の知名度が低く、大々的な宣伝もなく、主に口コミで売り上げを伸ばした作品としては破格の数字といえます。ビルボード誌のコラムは「…宮崎駿監督による、このまったく魅惑的なアニメーション映画は、評論家に賛美され市場でも成功した。映画やTVでおなじみのキャラクターが出てくるわけでも、タイアップがあるわけでもない作品としてはまれな事である。この映画は口コミで成功したのだ。」と書いています。
ちなみに、日本製アニメのビデオは米国では2万本売れれば大ヒットというニッチ市場です(急成長してはいますが)。ビルボード誌のビデオ売り上げチャートで初登場1位になり話題となった「攻殻機動隊」も、発売後1年の米国での累積売り上げが25万本です。米国で「アニメ」の代名詞となっている「アキラ」のビデオも、1988年の米国公開以来、全世界で累積40万本を売り上げた程度です。(ともに1997年当時の数字)
販売促進
子供向けTV番組で(あまり本数は多くありませんでしたが)CMが流されました。
店頭での販売促進活動はほとんどなかったと思います。店頭でビデオを流したり、ポスターやキャラクターの立看板を店内に配置したり、といった販促はビデオの売り上げにかなり影響力を持っています。「攻殻機動隊」のときも、店頭で繰り返しビデオを流して客に興味を持たせる作戦が成功した、と言われています。
「魔女宅」の場合、ビデオ店での取り扱いも地味でした。もう少し販促に力を入れてくれたら、もっと大ヒットになっただろうに、と個人的には思っています。
ほとんどの批評が大変好意的でした。米国には"Siskel
and Ebert" という映画評論TV番組があり、ここでの評価は大変大きな影響力を持っています。シスケルとエバートという二人の有名映画評論家が"Thumbs
Down"か "Thumbs Up"で映画を評価するのですが、「魔女宅」は”Two
Thumbs Up!"、つまり両方から良い評価をもらいました。Two
Thumbs Upは映画の宣伝やビデオのパッケージにあおり文句として(つまり、「この映画はこれだけいい映画ですよ」という事で)使用されるほど、重要で影響力を持つ評価となっています。(ちなみにこの2人がUS版ゴジラのNY市長とそのアシスタントのモデルです。)
実はシスケルは「トトロ」に対してはThumbs
Downだったのですが、「魔女宅」は絶賛しています。エバートは元々宮崎アニメの大ファンで、番組でもいかに宮崎アニメが素晴らしく、彼が宮崎アニメを愛しているかを力説していました。(シスケルが「もののけ姫」にどのような評価を下すか米国のファンは楽しみにしていたのですが、残念ながら彼は1999年2月に亡くなってしまいました。)
オーランド・センティネル紙のジェイ・ボイヤーは、ディズニーの「ムーラン」の映画評のなかで、「実際、私は(ムーランよりも)「魔女の宅急便」のヴィジュアルデザインのほうに感銘を受けた。(中略)
派手さではムーランに到底及ばないにもかかわらず、その精神はもっと清新で純粋であるように思われる」と、わざわざ「魔女宅」に言及しています。ボイヤーはさらに、「魔女宅」をビデオリリースするディズニーはこの作品の力がわかっていないのではないか、劇場公開に値する作品なのに、と書いています。
興味深い事に、「トトロ」が米国で公開されたときには「ディズニーのようではない」というのが批判の言葉だったのですが、「魔女宅」に対しては誉め言葉として使われています。たとえばヒューストン・クロニクル紙の批評は「ワーナーや、フォックスや、ドリームワークスが、収益性の高いアニメーション市場でディズニーを超えようとじたばたする一方で、日本のアニメーター宮崎駿は、素晴らしい作品を作るには別のやり方がある事を示した。(中略)ディズニーと同じ土俵でディズニーを負かそうとするのは、他のスタジオに任せておこう。この新鮮で、楽しくて、チャーミングな変化(「魔女宅」の事)をもって、宮崎は自分自身のやり方で勝利したのだ」としています。シカゴ・トリビューン紙の批評は「魔女の宅急便にはスタイルだけではなく、内容も備わっている。善と悪との戦いがテーマではないアニメーション長編映画が見られるなんて、なんて素敵な事だろう」と述べています。
受賞
エンタテイメント・ウィークリー誌の1998年度ベストビデオリストで、「魔女の宅急便」は1位に選ばれました。このほか、Reel.comの子供向けビデオ1998年ベスト10では2位、TVガイドの子供向けビデオ1998年ベスト10では5位に選ばれています。映画評論家ロジャー・エバートは1998年のベストアニメーション映画の1つに「魔女の宅急便」を選んでいます(「日本のアニメーションの天才、宮崎駿」の作品と紹介されています)。
「政治的に正しい」魔女宅
文化的政治的な理由により、現在の米国ではたとえ1部の社会層からでも反発を受けると思われることはすべて避けるという風潮が広がっています。日本の「放送禁止用語」への対応と似ていますが、それよりももっと広範囲です。特に子供向けエンターテイメントではかなり厳しい親もいますので、相当気を遣わなければなりません。そのため毒を抜かれて「人畜無害」のものに成り果てているのものが多いことも事実です。(日本は気にしなさすぎるとも思いますが…)
魔女宅においてもさまざまな改変が行われました。たとえば、キキとウルスラがヒッチハイクをするシーンでは、ウルスラとトラックのおじさんは顔見知りという事になっています。(「大丈夫、この人知ってる人だから」「いやー、そんな格好をしてたからおまえさんとは気がつかなかったよ」とセリフが変わっています。)米国ではヒッチハイクは危険で、特に女性はしてはいけない事となっているので、ビデオを見た子供たちが真似しないように(というか、これを見た親が心配しないように)変えられています。それでもフォートワース・スターテレグラム紙の批評には「こんなに小さな女の子が家を出る、というテーマに問題がある親もいるかもしれません。また、キキと女友達がヒッチハイクという危険かもしれない事をするシーンがあります」と書かれてしまいました。(^^;
興味深いことに、「神」への言及は一切消されています。例えばジジの「僕はまた天使にお届けものをするのかと思ったよ」やウルスラの「神様か誰かがくれた力なんだよね」というせりふはまったく別のものに置き換わっています。さまざまな宗教の人(無神論者も含めて)が暮らす米国では、宗教的なせりふは論争のもととなりやすく、「神の名を軽々しく口に出すべきではない」と考える人もいるからなのかもしれません。また、「魔女」と「神」の取り合わせに問題がある人もいるからかもしれません。
キリスト教徒のなかには「魔女」というだけで拒否反応を示してしまう人もいます。新聞記事や批評の多くは「キキは”良い魔女”で、彼女の魔法は良い事にしか使われない」という注釈をわざわざつけて、子供が見ても大丈夫な映画である事を強調しています。
しかし、それでもやはり誰からも反発を受けないわけにはいきません。Concerned Women for America(「アメリカを憂える婦人の会」とでも言いましょうか)は、「魔女を肯定的に書いている」という理由から、ディズニーが魔女宅を販売する事に反対しています。つまり、魔女を良い人間として描く事で、魔女や「反キリスト教的行為」に対する子供たちの抵抗をなくし、キリスト教徒として堕落させるつもりなのだ、というわけです。(子供のうちから洗脳して、米国を反キリスト教国にしようという深謀遠慮をディズニーは持っている、と彼らは考えているらしいです。)もっとも、同性愛に関する映画の公開などの理由から、この手の超保守派キリスト教団体はもともと反ディズニーであり(ディズニーボイコット運動を起こしたりもしています)、ディズニーが配給する映画であるからこそ問題にされたといえます。CWAはあまり有名な団体でもないため、彼らの意見はほとんど一般に話題になりませんでした。もっと話題になってくれればビデオの宣伝になって良かったのに、とも思います。
(米国にはいろいろな意見の人がいますが、さすがにここまで極端な意見の人はそう多くはありません。普通の親に魔女宅を見せたら、まず「問題ない」というでしょう。むしろ「このような作品こそ、キリスト教的価値観を体現しているものだ」という人のほうが多いと思います。)
原作本の英語版がAnnick
Pressから出版されています(リンク先で英語版の一部が読めます)。
"Tokuma Magical Adventure Series"というシリーズの一部として、1993年に米国でアニメ絵本が出版されています(現在は絶版?)
ビデオの発売に先立ち、1998年5月23日にシアトル国際映画祭において英語吹き替え版が公開されました。その後、各地の映画祭で上映されています。
「魔女の宅急便」は2000年に数度、Disneyの所有するケーブルチャンネル、Toon
DisneyとDisney Channelで放映されました。TV放映に際して、ジジがキキに「ヌード?」ときくシーンがカットされましたが、これは米国のTV業界では特に子供に関する性的表現に対して規制が厳しいためと思われます。その後もTV放映されているようです。
徳間がJALの機内で上映するために以前作成した英語吹き替え版があります。ファンの間では通常JAL版と呼ばれているもので、「ジブリがいっぱい」レーザーディスクセットに収録されています。わりといい出来です。
「コーヒーはいかが?」
「アニメじゃない」魔女宅
アンジーのセル画
「ジブリでハロウィーン」
ジ・アート・オブ・アメリカナイズド・ジブリ
米国以外での公開
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