Grave of Fireflies火垂るの墓


[米国/香港/フランス/英国/オーストラリア/ドイツ/スイス/スウェーデン/ベルギー/イタリア/スペイン/ロシア]


米国

DVD coverCentral Park Mediaから字幕版と吹き替え版のビデオ、レーザーディスク、DVDが出ています。英語タイトルは "Grave of the Fireflies"

当初1993年に発売されたのは字幕版だけでした。コアなアニメファンは圧倒的に字幕版を好むためと、この映画を「外国映画」として売るためだと思われます。その後、日本製アニメの市場拡大に伴い、もっと一般の観客(例えば子供たち)も楽しめるようにと吹き替え版が1998年の8月に発売されました(米国では字幕付き映画を見る層は非常にかぎられています)。

吹き替え版の発売の際、CPMは「もののけ姫と魔女の宅急便のアニメーターによる作品」というフレーズを宣伝に使いました。「火垂るの墓」の作画監督の近藤喜文氏は確かに「もののけ姫」と「魔女の宅急便」でも作画監督および作画でしたので、これは嘘ではないのですが、この2つの作品が米国では「ミヤザキ・アニメ」として受け止められている事を考えれば、意図的に誤解を招くようにしていると受け取られても仕方がないと思います。実際、「火垂るの墓」が宮崎監督の作品であると信じてしまっているファンもいます。この時期ちょうど米国で「魔女の宅急便」のビデオが発売されて宮崎アニメへの関心が高まっていた事もあったので、宣伝に利用できるものは何でもしたい、という会社の思惑もあったのでしょう。

吹き替え版の出来については私は見ていないので分かりませんが、USAトゥデイの批評では「頭を混乱させるような英語吹き替え」と書かれてしまいました。 アニメファンの中には、節子役の声優(大人の女性)に不満を感じた人もいたようです。(オリジナル版では節子は当時5歳の女の子によって演じられています。)

  • 吹き替え版ビデオ: 定価29ドル95、ワイド版、CPM 1053
  • 字幕版ビデオ: 定価29ドル95、ワイド版、CPM 1464
  • レーザーディスク : 字幕版、ワイド版、定価34ドル99、USMID2231CT、絶版
  • DVD: 英語音声、英語字幕、日本語音声、地域コードALL(日本でも再生可)、ワイド版、ドルビーステレオ、歴史的背景の説明、インタラクティブ・メニュー、キャラクターギャラリー、定価29ドル95、CPMD1729

また、この英語字幕版は1998年と1999年にカナダと米国のケーブルチャンネルでTV放映されました。

(「火垂るの墓」は徳間書店ではなく新潮社が製作したため、ディズニーとの提携には含まれていません。将来ディズニーが新潮社とCentral Park Mediaから米国での配給権を買う事がないとはいえませんが、これまでのところディズニーが米国で「火垂るの墓」を発売する予定はありません。)

 

  • 批評

米国で大変人気のある映画批評番組"Siskel & Ebert"は、1999年3月に「火垂るの墓」を「今週のビデオ」に選びました。(この番組では毎週数多く発売されるビデオの中から一本だけを取り上げます。) 番組のなかで、映画評論家のロジャー・イーバートは、「これは私がこれまで見た中でもっとも感動的な映画の一つだ。」「アニメーション映画があなたの感情を揺り動かす事ができるかって?(この映画なら)間違いなくできる!」と述べています。

イーバートはまた、シカゴサンタイムス紙において隔週で”Great Movies”と題するコラムを連載しています。イーバートが評価されるべきと考える映画を取り上げるこのコラムにおいて、2000年3月19日、火垂るの墓が取り上げられました。

「火垂るの墓はたまたまアニメーションである圧倒的でドラマティックな映画であり、評論家のErnest Risterがこの映画を「シンドラーのリスト」と比較して、「これは私が見た中でもっとも深遠な人間アニメーション映画である」と言った気持ちがよくわかる」「この映画の最も偉大な点の一つはその忍耐強さである。我々がそのシーンについて考えられるようにショットはとめ置かれ、キャラクター達はプライベートな瞬間をちらりと見せ、雰囲気と本質が確立するのに十分な時間を与えられている」

「日本の詩人は止めと句読点の中間であるような「枕詞」を使い、偉大な監督小津安二郎はたとえば二つのシーンを分けるのに「枕ショット」というべきものを使った。「火垂るの墓」もそれを使っている。その映像は一種の詩となっている。爆弾が降り注ぎ怯えた人々が通りを埋め尽くすといった速いアクションシーンもあるが、この映画はアクションを利用しようとはせず、その結果について静かに考える」

「映画は高畑勲が監督した。彼は日本の最も偉大なアニメーションを生み出してきたあの有名なスタジオジブリと共に働いている。彼の同僚には宮崎駿 ("Princess Mononoke," "Kiki's Delivery Service," "My Neighbor Totoro")がいる。彼の映画は通常これほどシリアスではないが、「火垂るの墓」はそれ自体一つのカテゴリである」

「(原作)本は日本ではよく知られており、実写映画化の話もあった事だろう。これはアニメーションに典型的な素材ではない。しかし、「火垂るの墓」にとっては私はアニメーションが正しい選択であったと思う。実写であれば特撮や暴力やアクションといった重荷を背負わされていただろう。アニメーションだからこそ高畑はストーリーの本質に集中する事ができた。アニメーションキャラクター達が映像的なリアリズムを欠いているからこそ私達は想像力をより働かせる事ができる。実在の俳優達のイメージに縛られる事なく、私達はキャラクターを自分自身の思い出と融合させる事ができる」

「この映画は、もし証明する必要があるとしたらだが、アニメーションは現実を再現する事ではなく、それを高め単純化する事によって感情に与える効果を生むのだと言う事を証明している」

「アニメーションであり日本製であるため、「火垂るの墓」を見た人は少ない。アニメファンがどんなにその映画が素晴らしいかを言う時、誰も真剣に耳を傾けようとはしない。この映画は現在英語吹き替え版と字幕版のDVDがでており、この映画にふさわしい注目が受けられるかもしれない。確かにこの映画は漫画で、子供たちの目は皿のように大きいが、この映画はこれまでに作られた最も偉大な戦争映画のリストに属している」

USAトゥデイの批評は吹き替え版ビデオに対し、最高4つ星のうち、3.5という高い点を与えて、「監督(中略)は(観客を)圧倒するイメージに対する素晴らしい本能を持っていて、この映画が実写でない事を忘れる事が可能なほどだ。」と述べています。ただ、残念な事にどういう訳かこの批評家は近藤喜文氏が監督だと思い込んでいます。

また、ニューヨーク・タイムズ は「まるで日本の毛筆画のような、淡いデリケートな色彩は子供たちが直面する醜い現実をやわらげている」と評しています。

米国のエンタテイメントTV番組Rough CutのDavid Polandは、「見過ごされた映画のための映画祭」のレポートの中で「火垂るの墓」に触れ、この映画には原爆の被害を描いた「黒い雨」同様、戦争と死と人間性に関して考えさせられたとしています。

日本製アニメは販売されているタイトルの偏りやアニメ販売会社のマーケティング戦略のせいもあって、米国では「エロと暴力」という烙印を押される事も多いのですが、「火垂るの墓」はそのイメージを打ち破るものとして引き合いに出される事もあります。例えば、ワシントンポスト の日本製アニメに関する記事では、「日本製アニメーションなんてみんなセックスと暴力だなんて思っている人には火垂るの墓を見せればいい」という米国のアニメ関係者のコメントを載せています。 バルティモア・サンの記事では、日本製アニメは子供向けに手加減するような事はせず、幅広いテーマやトピックに取り組んでいるとして、「火垂るの墓」を「源氏物語」などと共に例としてあげています。ロジャー・イーバートはシカゴサンタイムス紙のコラムの中で、「周りの人間は日本製アニメ=ポルノだと思っている」という読者からの手紙に対し、「それはアニメのことを何も知らないからだ。そういう人間には火垂るの墓をみせてやりなさい」と答えています。

 

  • 受賞

「火垂るの墓」(英語字幕版)は1994年10月に開かれたシカゴ国際児童映画祭に出品され、最優秀アニメーション映画賞を受賞しました。また、同映画祭では、国連の子供の権利宣言を最もよく代表する映画に与えられる「子供の権利」部門でも1位に選ばれました。

香港

1989年7月22日〜8月23日に劇場公開されました。興収は370万香港ドル。タイトルは「再見蛍火蟲」

DVD

NTSC、リジョンコード3(日本ではそのままでは視聴不可)
発売元: Pop & In Entertainment
2002年2月11日発売
95香港ドル
日本語&広東語音声
中国語字幕

 

 

 

 

 

フランス

フランスの情報はこちら

イギリス

DVD

PAL、リジョンコード2(日本ではそのままでは視聴不可)
発売元: Optimum Asia
2004年8月23日発売
カタログナンバー:OPTD0085
19.99ポンド
英語、日本語音声、英語字幕
2枚組
特典映像:絵コンテ(一枚目に収録)、
高畑監督&野坂昭如インタビュー、高畑監督&野坂昭如経歴、
ストーリーボード、アートギャラリー、
映画評論家ロジャー・イーバートのインタビュー、
日本版予告編、米国版予告編、
歴史に関するドキュメンタリー、
フィルムの修復について

オーストラリア

DVD

PAL、リジョンコード4(そのままでは日本では視聴不可)
発売元: Madman Entertainment
2004念2月10日発売
カタログナンバー:MMA694
39.99オーストラリアドル
ワイドスクリーン
英語、日本語音声(DD2.0)
英語字幕
特典映像は英国版に同じ

 

ドイツ

ドイツ語字幕版がデュッセツドルフの映画祭で上映されました(時期不明)。
ドイツ語タイトルはDie letzten Gluhwurmchen

2000年6月12日にドイツ語チャンネルARTE(ヨーロッパの何カ国かで視聴可能のようです)でTV放映されました。TV雑誌などでは「火垂るの墓」にたいして大変好意的な記事が掲載されたとのこと。これらの記事はジブリや高畑監督(ドイツで大変人気のある「ハイジ」の監督であることも含め)に関する情報も載せています。



DVD

PAL、リジョンコード2(そのままでは日本では視聴不可)
発売元:Anime Virtual
2002年6月17日発売
ASINナンバー:B00006B0IB
19.95ユーロ
ドイツ語、フランス語、日本語音声(DD2.0)
ドイツ語、フランス語字幕

このほか、アートブック、ポストカード、原作本が封入されたコレクターズ版も39.95ユーロで発売されています。
また、ドイツ語吹き替え版ビデオも14.95ユーロで発売されています。

DVD発売に伴い、ドイツ児童青少年映画センターが子供向けの優れたビデオに与える2002年第二四半期の「トップビデオ」に選ばれました。

スイス

1999年9月1日と3日に、スイスのバーデンで開かれたファントーシュ映画祭でドイツ語字幕版が上映されました。

2000年6月8日に劇場公開されました。詳細は不明ですが、いくつかの都市で単館上映、日本語音声にフランス語かドイツ語の字幕だったようです。

無料の映画雑誌Film demnaechstにある「火垂るの墓」に関するドイツ語記事の訳by只野さん:

この第二次大戦時の日本で演じられる信じ難いほど敏感な幼年時代の物語は、子供向けのトリックフィルムでは全くない。大人向けのアニメの逸品である。この人の心を波立たせるアニメは、広島や長崎の原爆投下を描くのではなく、米国のB29長距離爆撃機が1945年3月、全地域・都市に焼夷弾をまいて、そうすることで民間人の居住を全く根絶し始めたことを描いている。(中略)

作家、野坂昭如の半自叙伝は単に戦争の残酷を描写するだけでなく、飢餓の結末を劇的に描いている。合間合間にはしかし、驚くほど幸福なシーンが再三再四登場する。それらは子供時代の魔法を、非常に詩的な手法によって表現にまでしている。

 

スウェーデン

1999年11月に数回にわたって、ヨーロッパのケーブルチャンネルCanal+でTV放映されました。

 

ベルギー

1999年11月10日にヨーロッパのケーブルチャンネルCanal+でTV放映されました。

イタリア

DVD

イタリア語タイトル:Una Tomba Per Le Lucciole
PAL、リジョンコード2(そのままでは日本では視聴不可)
発売元: Yamato Video
2002年発売
カタログナンバー:YD-0023
26.50ユーロ
イタリア語(DD 5.1, 1.0)、日本語(DD 1.0)音声
イタリア語字幕
ワイドスクリーン
高畑監督、野坂昭如、山本二三インタビュー

 

 

スペイン

DVD

イタリア語タイトル:La Tumba de las Lucierngas
PAL、リジョンコード2(そのままでは日本では視聴不可)
発売元:Jonu Media
2003年10月21日
21ユーロ
2枚組
スペイン語、日本語音声(DD2.0)
スペイン語字幕
高畑監督、野坂昭如、スタッフインタビュー
第二次世界大戦に関するドキュメンタリー
アートギャラリー
スペイン語吹き替え版制作ドキュメンタリー
ブックレット、ポストカード、ポスター

スペイン語吹き替え版ビデオも発売されています。21.50ユーロ。

ロシア(ソ連)

1998年の第1回モスクワ児童青少年国際映画祭でグランプリを受賞。 

1989年には日本大使館協賛の映画祭において、モスクワ、ウラジオストック、タリン(エストニア)において上映されました。(ロシア語字幕だったのかどうかは不明です。)