ディズニー提携の基礎知識

徳間/ディズニー提携に関するFAQ (2000.1.11)

 

質問リスト


Q: 提携には何が含まれているの?

1. 以下の映画に関するアジアを除く(但し日本は含む)全世界でのビデオ配給

  • 風の谷のナウシカ
  • 天空の城ラピュタ
  • となりのトトロ
  • 魔女の宅急便
  • おもひでぽろぽろ
  • 紅の豚
  • 平成狸合戦ぽんぽこ
  • 耳をすませば
  •  ただし、これは提携が結ばれた当時の計画で、「魔女の宅急便」の米国市場での成功により、ディズニーはジブリアニメのビデオ配給だけでなく劇場公開の可能性も考えるようになりました。現在ディズニーはラピュタの米国での劇場公開を検討中です。

    「火垂るの墓」は新潮社が製作した(=制作費を出した)作品であり、徳間書店は権利を持っていないため、提携には含まれていません。「火垂るの墓」の英語版ビデオは現在Central Park Mediaという会社から出ています。「海がきこえる」も提携には含まれていませんが、これはテレビ映画であるためと思われます。

    2. アジアを除く全世界での「もののけ姫」の劇場公開。(その後のビデオ配給も含む。)

    3.「となりの山田くん」「千と千尋の神隠し」への出資(制作費の10%)。これにより、これらの作品を世界配給する権利をディズニーが優先的に得る事になります。

     

    Q: なぜディズニーと提携したの?

    簡単に言えば、ディズニーはジブリアニメを配給するのに必要な資金、人的資源、ノウハウ、ネットワーク、そして何よりもジブリアニメに対する尊敬を持った唯一の会社だったからです。

    現在米国で日本製アニメを配給している会社のほとんどは小規模なビデオ販売会社で、大規模な劇場公開が行えるだけの資金力もブランドネームもネットワークもありません。ジブリは作品が劇場公開される事を強く望んでいるため、これらの会社では力不足と言えます。ジブリは「となりのトトロ」の英語版を製作しましたが、これを米国で(ノーカットで)劇場公開してくれる会社を探すのに大変苦労したそうです。結局トロマ・ピクチュアーズという小さな会社が配給したのですが、資金力と知名度の不足で、大変小規模な公開に終わってしまいました。

    また、資金力の不足から、日本製アニメの吹き替えはえてして駆け出しの安い役者(あるいは役者以前)を使い、短時間で安いスタジオで録音される事が多く、このため英語吹き替え版の出来は通常あまり良くありません。最近では主役レベルでの演技力はかなり改善されましたが、それでも脇役などでは「素人がやってるのでは?」と思うほどひどい演技がまかり通っています。ディズニーの場合、豊富な資金力と経験(ディズニーアニメは世界各国で吹き替え版が作られています)を生かした吹き替え版を作る事ができます。

    「魔女の宅急便」の場合、主なキャストに有名俳優が起用されたばかりではなく、一言しかセリフがないキャラクターもとても自然な演技となっています。「もののけ姫」の場合、吹き替え版の製作に3億5千万円という、これまでのアニメの吹き替え版とは1桁も2桁も違う費用がかけられています。モブシーンなども大切にしたため、「もののけ姫」では総勢70人もの役者が使われたそうです。

    ただ、ジブリにとって最も重要な事は、提携先がジブリの作品を愛し、大事にしてくれるかどうかです。日本ではこれまで映画など映像ソフトが海外で配給されるときには、相手方にすべての権利を売り払ってしまう事が多く、その場合、後はその作品をどうされようとも何も言うことはできなかったのです。ジブリも以前「風の谷のナウシカ」を海外に売った際、配給元が勝手に短縮版を作り、話もめちゃくちゃに作り替えて悪名高い"Warriors of the Wind"という作品にしてしまったのですが、ジブリはこれに対してどうする事もできませんでした。この経験から、ジブリは自社作品の海外配給に関して「カットしない、勝手に改変しない」を条件とするようになりました。

    「となりのトトロ」の米国でのビデオ販売の成功等から、大手の映画会社もジブリアニメに注目するようになり、フォックスやワーナーからもジブリアニメをビデオ発売したい、と言う話が持ち込まれるようになりましたが、これらの会社は「アメリカ市場向けに変える必要がある」と言ってジブリの「ノーカット」という要求に首を縦に振りませんでした。

    しかし、ディズニーは最初から「我々はジブリの作品に対し深い愛情と尊敬を持っている」として、「ノーカット」に全面的に賛成しました。(もちろん、細かい契約条項に関しては相当激しいやり取りが会ったそうですが。) 結局の所、担当者がどれほどジブリ作品を大事に思ってくれているか、がディズニーとの提携を決める重要ポイントだったそうです。

    鈴木プロデューサーによれば、これまであきらめてきた外国の文学作品なども、ディズニーを通せば映画化権が取れるかもしれないし、CGやディジタルペイントなどでスタジオをディジタル化するために見学に行ったときも、ディズニーが企業秘密に関わる部分まですべてみせてくれたため、それを参考にかなり時間とお金を節約する事ができたそうです。これらはディズニー提携がもたらした思わぬ(?)恩恵で「これまでの所、提携からはメリットしか感じていない」との事でした。

     

    Q: ディズニーブランドで発売されるの?

    いいえ。「魔女の宅急便」のビデオのパッケージには背表紙に「Buena Vista Home Video」の文字が入っていますが、「Disney」の文字はどこにも入っていません。また、米国ではディズニーアニメは「Disney」のコーナーで販売されますが、「魔女の宅急便」は「Family」 (あるいは「Anime」)のコーナーで販売されています。

    ビデオの中では、まず「Buena Vista Home Video」のロゴが出て、その後おなじみのブルーのトトロのジブリのロゴが出ます。(その前に「ライオンキング2」などのディズニービデオの予告編が入るので、ディズニーに関連したビデオだと言う事は隠しようもないのですが。)

    ジブリビデオを配給するために、ディズニーは「アニメーション・セレブレーション」というブランドを新設しました。これは、世界中から優れたアニメーション作品を配給するためのブランドだそうですが、今の所ジブリアニメ以外に何を配給するのかは明らかではありません。

    なお、「魔女の宅急便」のビデオ発売に関して、ディズニーがマスコミ向けに書いたプレスリリースや、それに基づいた記事では、この映画は日本製だがディズニーが配給する事、そしてこの作品は日本の素晴らしいアニメーションクリエーター(時には「日本のディズニー」と呼ばれています)ハヤオ・ミヤザキの作品である事が強調されています。

    「アニメーション・セレブレーション」のロゴ。 「世界中の有名アーティストによる、評価の高い映画の国際コレクション」 と書いてあります。

     

    Q: いつ、何が公開されるの?

    米国:「魔女の宅急便 ("Kiki's Delivery Service" )」は1998年9月1日にビデオ発売されました。(詳しくはこちらへ)

    「もののけ姫 (Princess Mononoke)」は1999年10月29日に劇場公開されました。(詳しくはこちらへ)

    「天空の城ラピュタ ( "Castle in the Sky")は現在劇場公開が検討されています。公開時期はまだ決まっていません。(詳しくはこちらへ)

    他の作品についてはまったく何も決まっていません。ただし、1999年の9月から11月にかけて、全米各地の映画祭、美術館等でジブリ作品の上映会が開かれました。(詳しくはこちらへ)

    日本: 「ジブリがいっぱいコレクション」として廉価版ビデオ及びDVDがブエナ・ビスタ・ホームエンターテイメントより発売されています。

    ヨーロッパ: フランスで2000年1月12日に「もののけ姫」のフランス語吹き替え版が公開されました。くわしくはこちら。その他、ドイツ、ポーランド、イタリア、スペイン等で「もののけ姫」が公開されています。イギリスにおいては「もののけ姫」の映画祭での上映及びDVDの発売が2001年10月に予定されています。

    また、「魔女の宅急便」のスペイン語吹き替え版が1999年4月にスペインで、オランダ語吹き替え版が1999年9月にオランダとベルギーで発売されました。

    その他: ブラジルで公開されるための「もののけ姫」のポルトガル語吹き替え版が完成していますが、公開時期についてはまだ未定です。また、オーストラリア、ニュージーランドでも「もののけ姫」が公開されました。

    アジア: ディズニーとの提携はアジア地域を含んでいません。アジアでの配給は徳間書店と提携した現地企業が香港、台湾などで「もののけ姫」を1997年7月に公開しています。

     

    Q: 吹き替え版?字幕版?

    米国では字幕版の映画やビデオを見る人はあまりいないため、英語吹き替え版がメインとなっています。また、その他の市場でも基本的には子供をターゲットにしているという事で、現地の言葉に吹き替えて発売される事になっています。これまでの所、「魔女の宅急便」「ラピュタ」「もののけ姫」の英語版が製作されていますが、どの作品も有名俳優を起用し、お金と時間をたっぷりかけた吹き替え版となっています。

    しかし、米国のアニメファンは圧倒的に字幕版を好む人が多いため、この層に向けてディズニーは「魔女の宅急便」の字幕版ビデオも発売しました。また、レーザーディスク版では日本語、英語の二カ国語音声となっています。ただし、今後発売されるタイトルに関しては字幕版が発売されるかどうかはまだ決定していません。

    もののけ姫に関しては、吹き替え版のみの劇場公開になりました。字幕版はDVDに収録されています。

     

    Q: レーザーディスクも発売されるの?

    「魔女の宅急便」はレーザーディスクでも発売されました。

     

    Q: DVDも発売されるの?

    「もののけ姫」のDVDは2000年12月19日に発売されました。詳しくはこちら。「魔女の宅急便」もDVDで発売されるという噂はありますが、まだ正式な発表はありません。

     

    Q: ディズニーが映画をカットしてしまったりする心配はないの?

    先に延べたように、「ノーカット、勝手に改変しない」は提携の重要な条件となっています。もっとも、ジブリの同意があれば改変できる、と言う事で、「魔女の宅急便」や「ラピュタ」ではアメリカ市場向けに音楽が変わっていますし、ミラマックスは「もののけ姫」を数箇所カットさせてくれ、とジブリに申し込んだそうです。(Princess Mononokeは結局ノーカットで公開されました。)

     

    Q: ディズニーとジブリが一緒に映画を作ったりするの?

    ディズニーは、「ホーホケキョ となりの山田君」の制作費の10%を投資しています。(徳間書店が50%、日本テレビが30%、博報堂が10%をそれぞれ投資しています。) この投資によりディズニーはヨーロッパと米国における「山田君」の映画、TV, ビデオ配給権を獲得しました。

    また、ディズニーは宮崎監督の次回作、「千と千尋の神隠し」にも出資しています。

    ただし、投資しているからと言って、ディズニーが映画の内容に口を出してくる事はないそうです。

     

    Q: ディズニーがジブリのCDやグッズを売ったりするの?

    現在の所、ディズニーが持っているのは映画とビデオの配給権だけで、商品化権については何も決まっていません。将来この件で交渉が進めば、米国でもトトロのぬいぐるみやラピュタのCDがどこでも買えるようになるかもしれません。

    もののけ姫のサウンドトラックCDは1999年10月12日に、交響組曲は2001年5月15日にMilan Recordsから発売されました。

     

    Q:宮崎監督はディズニーが嫌いじゃなかったの?

    宮崎監督は確かにディズニーの映画を批判していますが(初期のシリーシンフォニーなどの作品はお好きだそうです)、「映画の製作と配給は別」とコメントしています。